相対取引
経営の失敗を認めず、金の無心ばかりのビッグ3に「自主再建」は可能か ビッグ3と称された盛期の勢いはなく、デトロイト3(D3)と見下される立場に凋落したゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、クライスラーの米自動車大手3社は2日(米東部時間)、米議会に、相次いで“再建計画”という名前を冠した文書を提出した。 それらに共通する特色は、なんとか政府の救済を受けようとして、あの手この手の媚びを売った点だろう。これまで再三の批判にも手放そうとしなかった経営陣の高額報酬のカットだけでなく、高コストの自家用ジェット機の売却を盛り込んだことは目新しい。 しかし、その一方で、この種の再建計画において最大のFX と言うべき、いったい何故このような深刻な危機を招いたのかという原因の追究がほとんど盛り込まれなかったのは問題である。その結果、当然と言えば当然だが、今回の危機の解決に必要な施策について随所で突っ込み不足の内容にとどまったのだ。 1ドル報酬にも応じる姿勢で 懸命のワゴナーGM会長 仮にD3に公的支援を行わず倒産させる選択をすれば、世界経済と雇用に与える影響の大きさは計り知れない。とはいえ、名ばかりの再建計画しか担保に取れないまま、勝算の乏しい計画に税金を注ぎ込めば、米国民の反発が避けられない。世界規模で過剰な生産調整を阻む懸念も存在する。板挟みの中で、米議会があえて世論を敵に回す危険を冒して支援を決断するリスクをとるのかどうか。事態は予断を許さない。 11月半ばの公聴会で上下両院の日経225 に失敗して、250億ドルの金融支援を取り付けられなかったD3の窮状は深刻さを増すばかり。GMのリチャード・ワゴナー会長は2日の“再建計画”の提出にあたって、ヘンダーソン社長と電話記者会見に応じ、政府の支援の必要性を懸命に訴えた。 「(政府以外に)資金調達先は思い当たらない。先行きは不透明で、(政府の支援がなければ、)危険な状態に陥る」と。 そのうえで、4年連続の巨額の最終赤字が確実にも関わらず、カットを拒んできた高額報酬についても、 「受身になっているという批判はもっともだ。だが、(先の議会の)公聴会で(努力不足のままでは)投資信託 しないとのメッセージを受け取ったのだから、それに対応するのは当然のこと。ただ、(具対策としての)1ドル給与は、議会の指導があったわけではなく、GMの取締役会が独自の判断で決めたものだ」と、説明。遅まきながら、懸命の自助努力を訴えた。
確かに、D3の“再建計画”は従来に比べれば、踏み込んだ内容と言えなくはない。GMが上院銀行委員会と下院金融サービス委員会に提出した37ページの文書を例にとると、自家用機の売却だけでなく、 (1)現在8つあるブランドについて、83%を占めるコアブランドのシボレー、キャディラック、ビュイック、GMCの4ブランドに資源を集中し、「ハマー」「サーブ」の売却、「ポンティアック」の大幅な車種削減、「サターン」の事業見直しなどを検討する、 (2)現在のところ9万6500人抱えている米国従業員を、2012年までに6万5000人から7万5000人程度まで削減する、 (3)現在47ある米国の製造拠点(工場)を、2012年までに38拠点に削減する、 (4)時間当たりの製造コスト(人件費)を、2012年までにトヨタ並みの45ドルから50ドル程度に引き下げる、 (5)現在6種のハイブリッド車を、2012年までに15種に増やすなど、外国為替証拠金取引 を強化する、 (6)660億ドルの負債総額(退職者向け健康保険料負担含む)を、2012年までに336億ドルから501億ドルに削減する、 ――といった内容が盛り込まれたからだ。GMはこれらの施策によって、北米地域でのトータルの事業コストは2008年の303億ドルから、2012年には232億ドルに低下すると強調。 ただし、今回は、11月中旬に要求した支援額よりも60億ドル多い180億ドルの政府支援が必要だと結論付けた。このうち、増加分に相当する60億ドルについては、「計画の下ぶれリスクを考慮に入れたもので、状況が悪化したときに必要になる融資枠だ」(ヘンダーソン社長)と説明。一方、120億ドルの運転資金のうちの40億ドルについては、「年内に必要」と、事態が切迫していると結んでいる。 とはいえ、今回の危機の背景について「過去数年にわたって、低賃金と低い退職者給付負担しか負わない外国企業との競争にさらされてきた」としているほか、問題点についても「大恐慌以来最大の景気後退や信用不安にさらされている」などと、GM自身の経営の失敗を直視しようとしない偏った分析が目立つのも事実。
また、“再建計画”には、相変わらず、「GMが破綻すれば、その1年以内に、300万人以上の人々が失業の憂き目をみるとの調査もある」などと、政府に支援を強要しているとしか思えない傲慢な記述も残っている。 他社の再建計画も、最大90億ドルの支援を要請したフォードが「ボルボ」の売却と、世界の幹部社員、北米の全社員のボーナス支給の停止を盛り込んだのが目立つぐらい。年内に70億ドルの融資を求めたクライスラーが強調した対策は、他社との提携だ。その一方で、ロバート・ナルデリ会長は年内の支援がないと「2009年3月までに手元資金が底をつく恐れがある」と警告した。 技術開発を怠った敗因を 直視しない無責任 こうしたD3の状況に、企業の再生・再建分野のコンサルティングを得意とするアリックス・パートナーズのマネージング・ディレクターで東京代表の西浦裕二氏は、詳細な分析はしていないと前置きしつつ、「この種の再建計画で一番重要なのは、経営危機に陥った原因を徹底的に究明して、その対策を講じること。その点で、今回のD3の計画は甘さが残った印象が拭い切れない」と話す。 実際のところ、資産運用 の業績をみると、最終損益が赤字に転落したのは、まだ世界中が好景気に沸いていた2005年のこと。その後も続いた好景気と対照的に、GMは2006年に債務超過に転落。さらに2007年は387億ドルという巨額の赤字を計上、2008年に入ってからも好転の兆しがまったくなかったのだ。 サブプライムローン問題をきっかけに景気が本格的な後退局面に入ったのは、今年に入ってからで、しかも第2四半期までは、減税などの効果で米景気は上ぶれしていただけに、現下の経営危機の主因を景気情勢に求めるGMの議論はまったく説得力を欠いている。 むしろ、最大の問題は、昨年夏以降までの急騰は修正されたものの、それでも歴史的に見れば高い水準にある原油価格の上昇傾向や、必要性が叫ばれる環境・CO2対策に、D3が乗り遅れ、小型化、軽量化、低燃費化、環境対策などで日本勢などに後塵を拝してきたことだ。 D3の中で、フォードが最も資金繰りに余裕があるとされているのは、同社がマツダから多くを学んだとされることと無縁ではないのだ。対照的に、GMやクライスラーは、こうした対応で遅れ、技術蓄積で大幅に遅れている。 今回、各社の“再建計画”がそうした点にほとんど言及しなかった点は致命的で、将来、D3が技術面で競争力のある自動車を製造・販売できる見込みは乏しいと言わざるを得ない。
また、米センター・フォー・オートモーティブ・リサーチによると、1時間当たりの労務コストは、トヨタ自動車やホンダ、ヒュンダイなど12社の平均44ドル20セント(年金や健康保険の給付を含む)に対して、D3のそれは73ドル21セントと極端に割高だ。 こうした高コスト体質を、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「(D3は)ファンタジー・アイランドで暮らしている」と手厳しく批判している。 さらに、同紙は3日、まずGMとクライスラーを破綻させ法的処理の俎上に載せたうえで、その再建を政府が支援する案が浮上していると報じた。 オバマ政権発足まで 事態が進展しない観測も 公的支援が、米国民の血税をドブに捨てるようなものに過ぎないかもしれないという状況に、米世論も苛立っている。米民間調査会社のラスムッセンが11月25日に発表した世論調査によると、D3への公的支援に「反対」する人は55%と「賛成」(26%)の2倍以上に達している。同社がその5日前に発表した調査では「GMのような企業は、政府の支援を与えて事業を継続させるよりも、破綻させた方が経済全体のためになる」という意見に賛意を表明した人は48%に達した。再建の見込みが確実と言えない企業に支援の手を差し伸べて延命し、資源の最適配分を実現できないのは中長期的に見てマイナスと見る向きが多いことを物語っている。 米議会では、上院が本稿締め切り後の4日(米東部時間)に、下院が翌5日に再び公聴会を開いて、D3首脳陣から“再建計画”の説明を受けるという。当初、「8日から」と報じられていた救済法案の審議が予定通り開始されるかどうかは微妙な状況という。 ブッシュ政権や議会共和党、あるいは民主党の指導部以外では依然として、D3への支援に否定的な声が少なくない。こうした中で、ナンシー・ペロシ下院議長とハリー・リード上院院内総務の議会民主党指導部が早期に支援を決断できるかどうか。 11月25日の記者会見で「白紙の手形は渡せない」と選挙期間中よりは慎重な姿勢を見せたものの、相変わらずD3の公的支援や雇用維持に熱心なオバマ政権の発足まで、「事態は進展しないのではないか」との見方も少なくない。 入り乱れる観測の中で、事態がどうなるか。金融危機と並ぶ世界経済のもうひとつの懸念の出口が注目されている。