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賃上げの能力があっても、中長期のスパンで見通すと、いろいろきびしい事態が予想されるという庇理屈をつけて、つまり「狼が来るぞ」式の脅しで、結局、「支払能力はない」といい張ることができる仕掛けになっている。
「支払能力論」のごまかしはこれにとどまらず、つぎの3つの抜け道で補完されている。
かりに「支払能力あり」と判定された場合でも、第一に、それを賃上げでなく、雇用の確保にまわすべきだ、というものだ。
第2に、「支払能力」があっても、それをベースアップに充当するのではなく、一時金(ボーナス)に加算するといった一時的な対応にとどめるべし、というもの。
第3に、「支払能力」があっても、それを労働者の賃上げなどに充てるのではなく、自社で販売している商品(製品やサービスの価格を下げるために活用しなさい。
このように日経連は個別企業を指導しているのだ。
ここ数年の日経連は、賃金とは広く人件費のことだという解釈のもとに、右のような賃金抑制の「理論」を、たんに基本給だけにとどめず、「総額人件費管理」強化との関連で、人件費総額全体を射程に入れて提起している。
日経連・経営者の中心的な関心事は、賃金というよりも「人件費」なのだ。
そのことは、つぎのような98年版「労問研報告」の記述からも明白であろう。
つまり、この部分といえるだろう。
まず「報告」は、春闘を、つぎのように、たいへん重視している。
つまり、「今次労使交渉は、日本経済の行方を左右する重要な交渉である」というのである。
「報告」は、そのポイントを、つぎの点においている。
こでいう「賃金」および「賃金決定」とは、厳密には「総額人件費」と「総額人件費の決定」を指すことに留意されたい」というわけだ。
すなわち、「企業を成長させつつ雇用の維持・創出を実現するためには」、「雇用・賃金・労働時間を総額人件費の視点から総合的に検討することが特に重要である」と強調している。
これは端的にいって、大幅賃下げの提起だ。
ねらいの焦点は、明らかに賃下げ(人件費の削減)にある。
「報告」は、「雇用・賃金・労働時間は、いずれも企業の人件費コストに直接かかわり、これら3つの積が総額人件費になる」として、「高コスト経済下では、一雇用の維持・創出のためには、もはや賃上げか雇用かという単純な選択では対応できない」と述べている。
ということは、資本にとって、もっとも満足できる組み合わせは、雇用をパートなど不安定雇用中心に再編し、(との関連で)賃金を大幅に下げ、新たに正社員の「時給化」も追求し、ワークシェアリング(実は「ゥエィジ・ェアリング」)を利用し、労働強化を加速させつつ「時短」(賃下げ)をおこなう、というものだ。
こで、00年版の「報告」が「ワークシェアリング」導入に踏み込んだ提起をしている点に言及しておきたい。
まず、「雇用・賃金・労働時間の総合的検討にあたっては、ワークシェアリングの考え方を視野に入れる必要があろう」として、つぎのようにワークシェアリングを「定義」づけている。
「ワークシェアリングとは、一般に、就労時間を減らし、その分、賃金を下げて雇用を維持する手法であるとされている」。
これは日経連のきわめて身勝手な定義で、決して賃下げがワークシェアリングの当然(あるいは不可欠)の要件ではない。
そのときどきの条件で、とくに労資の力関係によって、時短だけのワークシェアリングであったり、時短と賃下げをともなうワークシェアリングであったりするこれがヨーロッパなどでも受け入れられている普通の理解だろう。
にもかかわらず、「報告」はワークシェアリングは賃下げをともなうものと決めてかかり、結局のところ、賃下げのためのワークシェアリングを導入したい、ということなのだ。
それには「時間給概念」の一般化が必要だとして、「正規従業員の仕事・価値を洗い直し、仕事の性格・内容によって時間給管理が可能なものは時間給賃金とする発想も必要ではないか」と新しい提起を、00年版「報告」で初めてしているのである。
このような無理難題(「逆春闘」)を労働者に「受け入れ」させるには、春闘のあり方も変えなくてはならないという立場から「報告」は、近年一部の労働組合でみられる「春闘改革」論議を評価しつつも、しかししっかり注文もつけている。
これはそうした労働組合幹部の思惑を上回るとても較滑な対応といえるだろう。
要するに日経連は、春闘を形骸化して温存し、賃下げの場(労働条件切り下げの場)として利用しようということであり、たいへん手が込んでいる。
その手法の特徴は、産業間や企業間の業績のアンバランスの拡大を口実に、「産業別交渉」を嫌って「企業別交渉」に個別化し、企業別交渉も能力・実績差を口実に結局、一人ひとりの労働者ごとの「個別交渉」に分断していく、というものである。
これは、労働組合を一方の当事者とする「集団的労使関係」の形骸化であり、実質的には労働組合が存在しなかった時代への逆流を意味する。
こうなってしまえば、賃金など労働条件がきわめて低く、かつ窓意的に決められるようになることは指摘するまでもない。
いま日経連がめざしているのは、そのような事態の実現である。
しかし、日経連の思惑どおりに状況はすすまない。
後述のように、逆春闘など財界の深追いが、かえって労働者・労働組合の団結を固めるという支配層にとっての矛盾があらわれつつあるからだ。
ここにいう「改革の断行」とは、「高コスト構造の打破」であり、犠牲を労働者・国民に一方的に押しつけるものだ。
その舵を「経営者がとる」のはかれらの勝手だとしても、これに「労使が協調」していく条件は、かつてと違って少なくなってきている。
中部生産性本部の調査によっても、労働者の過半数(60%)は「会社が発展しても自分の将来が開けるとはかぎらない」と考えている。
「パイの理論」の崩壊である。
労働者の意識が以前とは大きく変わっているし、さらに変わりつつある。
企業主義(会社意識)が急速に希薄化しているということだろう。
同時に、反共差別意識も関西電力の労働者たちの勝利や日本共産党の影響力の増大などで、大きくゆらいでいる。
企業主義と反共主義は日本の労働運動にとって重大なブレーキだったが、それが崩れかけている。
こうしたなかで99春闘で財界は不当にも「逆春闘」をしかけたが、これが労働者の団結を促進するという皮肉な展開になっている。
「逆春闘」までの「管理春闘」では、財界は労働運動の一部を味方につけ、春闘の「管理」に「成功」してきたのだが、「逆春闘」となると資本のほうから賃下げなど労働条件の引き下げを押しつけるから、協調的な運動潮流といえども、もはや「お付き合いできない」ということになりつつある。
すでに単組レベルでは、はっきりした変化がおきている。
札幌市のあるハイヤー会社(従業員2220人)では、60年代から対立してきた2つの労組が、月額3万6000円もの賃下げという会社提案を契機に、史上初の共同のストライキを実現させた。
資本の深追いが新たな労働者のたたかいを切り開いたのである。
その可能性があちこちで広がっているのだ。
2001年1月21日、日経連臨時総会で、同年版の「労問研報告」が承認された。
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